Last Update : Jun 16, 1998 (ブライトホルン概念図 アラリンホルン・アルプフーベル概念図 追加)
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ラ・ネージュ山スキー記録集III 


  発行日 1989年12月25日

La Haute Route(2) 後半 

ヴァリスアルプス スキー登山                  

 ブライトホルンアラリンホルンアルプフーベル


                         1989年5月3日〜5月5日 
             メンバー:L:岡坂準一、加藤康男、西川克之、柴崎松夫 
                    田村和彦(RSSA)          


5月3日 快晴
 (ブライトホルン登頂−>ゴルナー氷河滑降)
 シュトックホルンのロープウェイが動かないので、予定を変更して本日はブライトホルンに登り、いったんツェルマットに戻ってからフリューアルプ小屋に入り、明日アドラーパスを越えることにした。
 3820mのクライン・マッターホルン駅南出口を出発すると好天で、ブライトホルンへ登っている人もたくさん見える。プラトーをすぎ南面の登りは一気に傾斜をましている。例によってガイドのフィリップは先行して見えなくなってしまったので、私もスピードをあげて登った。傾斜はあるがフィリップも言っていたように「春の雪」なのでシールが快適にきく。私はブライトホルンは2度目、4000m峰は10回目なので丁度1時間で頂上に着いたが、他のメンバーはさらに20分から35分要した。 

「彼らはどこだ。」                            
「見えない。遠くないと思う。」                      
「加藤はザックをどうした。」                       
「下にデポしたのだろう。」                        
「どうしてだ。ここは山なんだ。同じ場所は戻らないし。」          
「岡坂はまだ来ないのか。」                        
「わからない。」                             
とさわいでいるうちに岡坂氏は反対(東側)から頂上に現れたので驚いた。あの狭い稜線をスキーで登ってきたのだ。

 下りはしばらく滑りおりて加藤氏のザックを回収しながら、登りと逆の東向きへトラバースしながら進んだが、結局そのままは進めず岩の間の急斜面をこわごわおりてノーマルなルートに合流することになった。 皆、慎重に下っているとフィリップは、「Aller plus vite」(もっと速くこい。)と叫び、その後のトラバースでも遅れて見えなくなると「Ce quise passe」(どうしているんだ)とつぶやく。もちろん十分英語は話すのだが急いで行動を促す時にフランス語がでがちになる。ともかくひたすら急いで最後はスキーを担いでシュバルツトールの鞍部に着いた。
 ここから北へシュバルツェ氷河に滑りこむ。傾斜の緩急、氷河の様相、変化にとみなかなかおもしろいルートである。ゴルナー氷河に合流すると傾斜はなくなりトレース通りにまっすぐ進む。2200m付近は狭く急な、のど状でゲレンデ同然のこぶになっている。ここをすぎると林間の道をたどってフーリーの駅に着いた。
 ツェルマットに戻るとまたもや予定外の事態になった。ブラウヘルトのロープウェイが動かないので今日フリューアルプ小屋へは入れないのだ。どうするか。明日スネガ(2280m)から出発し、アドラーパスを越える。いやそれはシュトラールホルンまで加えると1900m、不可能ではないが少々長い。他方ザースフェーからミッテルアラリン(3500m)への氷河メトロは動いていないが雪上車でそこまで行けるとのことなので明朝タクシーでザースフェーに行くこととした。


【ブライトホルン概念図】 


5月4日 木曜日 快晴 (アラリンホルン登頂)
 岡坂氏、加藤氏はツェルマットに残り、 田村氏、柴崎氏、私の3人でザースフェーに行くことになった。 下回りコースで1時間でザースフェーに着いた。1日券を買ってロープウェイでレングフルーまで上がり、荷物をデポした。雪上車がTバーをつけたロープを引っ張って行き、それにつかまって進んでいき、またTバーリフトを乗り継ぐ。というわけでここでも機械力で3500mのミッテルアラリンまで登ってしまう。ここでシールを着けアラリンホルン北東稜を左に見て右にトラバース気味に進み急登を一登りでフェー氷河に出た。ここで初めてオートルートでは使われなかったスキーアイゼンを着け頂上へ向かう。少し急そうに見えたが登ってみるとなんでもなく頂上直下5mはちょっとした広場になっていた。スキーをデポし雪稜を20m歩くと十字架のあるアラリンホルン頂上で、ここではフィリップが1人ずつ気を配りながら写真をとってくれた。
 頂上からフェー氷河まではやや急で、しまった斜面を快調に下る。ここから右に向きを変えフエー氷河に滑りこむ。右よりに行くとゲレンデに早く合流するので、左よりにフエーコップフから続く岩稜の右側のシュプールのない雪面を滑って下り、レングフルーに戻った。
 そこで昼食をとり、レングフルー小屋は満員だがブリタニア小屋は予約してあるので最終の3時半の雪上車に乗ると、全員ブリタニァ小屋に行く山スキーヤーだった。日本では考えられないことだ。雪上車は3000m付近までその先はトラバースしてブリタニアの小屋へ向かった。途中、氷河メトロのトンネルを通ると中は完全にまっくらだった。フェルスキンのロープウェイ駅も閉まっていた。ザースフェー売りものの氷河メトロはどうなったのだろう。単に閉まっていた時期というよりも、もう壊れているようにも思える。
 ブリタニア小屋はものすごく混雑していた。カゴと木靴がどこにあるかわからないのでベッドの横の棚に荷物を置き、暗い感じの食堂で順番を待った。ようやく8時20分ごろ、まずスープがきて夕食を終えたのは9時を過ぎていた。部屋に上がる階段にはまだ座って待っている人がいた。ベッドに行くとだれかねているので声をかけるととびおきて去っていった。それからベッドの脇で荷物を整理しかけると小屋の女の人がやってきて私の手からザックをひったくってほうりなげ、さらにまわりの物もほうり捨てて場所をあけマットをしいた。ここも誰かの寝場所になるのだ。どうしてこんな扱いをされるのか全くひどいところだ。 水だってくれなかった。これが4000mスキー登山に絶好の位置をしめるブリタニア小屋の実態なのか。もう2度といかない。ベッドは確保できたが、頭と足を互いちがいにして、やっと寝られる状態だった。早く朝がきてこの小屋をぬけだしたかった。もうあと一日だ。


5月5日 金曜日 快晴  (アルプフーベル登頂)
 5時半、目がさめるとガリガリとスキーで氷を削る音が聞こえた。シュトラールホルンへ行くパーティが氷河を下っていったのだ。6時15分やっとブリタニア小屋を脱出しアルプフーベルへと出発した。昨日の往路をひきかえし、ゲレンデを突っ切りフェーコップフから北へ延びる岩稜の末端近く3140mに荷物をデポしスキーアイゼンを着けた。フィリップはカゼの具合がますますよくないらしくシャモニに戻ったら医者に行かなければと言っている。正面に幅広い台形状のアルプフーベルが見え、何十人も登っている。その右にミシャベルの2大高峰ドームとテイシュホルンの大岩壁がそびえる。まさにミシャベルの真価はザースフェー側で発揮されるといわれるとおりだ。
 アルプフーベルの登りは急斜面を迂回し緩く延々と長い。 我々はザックを背負ってはいても空身同然なので他のパーティより速かった。前後に断続的に列ができて大変な数である。100人以上登っているのではないか。「日本から来たのか、いいことだ。」と前のドイツ人が言う。
 4000m付近にクレバスがあり傾斜もかなり急である。クレバスの手前にスキーをデポしているパーティも多い。その先があるのでキックターンに緊張を要する唯一の難所らしき所。私はフィリップのすぐ後を歩いていたので同じようになんなく通過したが柴崎氏と田村氏は離れていたので、少し緩かな所までいってそこで私は待ち、フィリップはアイゼンに替えて難所まで引き返して2人をサポートした。それから緩い登りを続けて広いアルプフーベル山頂に達した。さえぎるものがなくなり四方にアルプスの壮観が展開する。
 登りきった西方にマッターホルン、モンブラン、ダンブランシュ、ヴァイスホルン、右にドームとテイシュホルン、左にリスカム、モンテローザ。アルプスの巨峰が澄みきった青空の下に君臨する。もう思い残すことはない。あとは一気にザースフェーまで滑り下りるだけだ。今回の山行での最高点アルプフーベル頂上からザースフェーまでの滑降は、後半はゲレンデに合流するとはいえ、標高差も今回で最大2400m以上で、4000mの難所を通過すれば、もう何の心配もない。思うがままに眼下のザースフェーへと下っていく。少しルートをはずしてきれいな斜面にシュプールを残したりもして滑りをたんのうしてロープウェイ乗場の下のテニスコートまで下った。
 バス乗場へ行き、レストランで無事終了を祝して乾杯した。ポストバスでヴィスプへ出、一日早く帰国する田村氏とはマルティーニで別れ、列車でシャモニに戻った。

                              (西川 記) 


【アラリンホルン・アルプフーベル概念図】 


オートルート前半 4/22〜5/2へ

【コースタイム】 
5月3日                                 
クライン・マッターホルン(3820m) 10:20            
ブライトホルン山頂   (4164m) 11:20〜12:00      
シュヴァルツトール   (3731m) 13:20            
フーリ         (1864m) 15:05            

5月4日                                 
ミッテルアラリン    (3500m) 11:10            
フェーヨッホ      (3820m) 11:50            
アラリンホルン山頂   (4027m) 12:30〜13:05      
レングフルー      (2870m) 13:30            
雪上車終点       (3000m) 16:30            
ブリタニア小屋     (3030m) 17:25            

5月5日                                 
ブリタニア小屋     (3030m)  6:15            
アルプフーベル     (4206m) 11:05〜11:40      
デポ地         (3140m) 12:15〜12:25      
レングフルー      (2870m) 12:30            
ザースフェー      (1790m) 13:05            


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