Last Update : Mar 27, 1999 (オートルート全体概念図 追加)
      Dec 30, 1997(初版)

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ラ・ネージュ山スキー記録集III 


  発行日 1989年12月25日

La Haute Route(2) 前半 

オートルート及びバァリスアルプス スキー登山           

                        1989年4月22日〜5月8日 
             メンバー:L:岡坂準一、加藤康男、西川克之、柴崎松夫 
                    田村和彦(RSSA)          


 オートルートは、モンブラン山群のシャモニよりバァリス山群のザースフェー(又はツェルマット)までの150kmに及ぷツアーコースである。コースは、モンブラン山群を超えて、シャンペまでは同じルートであるが、シャンペよりベルビエのスキー場から、モンホーの小屋に入る『フランスルート』とブールサンピエールから、バァルソレイユ小屋に入り、グランコンバンの肩の部分を超えて行く『クラシックコース』の2つのルートがある。両コース共に、ビニエット小屋にて合流し、ツェルマットまでは、再び同コースとなる。
 今回の当初の計画では、クラシックルートの完走とアラリンホルンアルプフーベル シュトラールホルンなど、バァリスアルプスの4000m級のスキー登山を目標にした。結果としてオートルートの方は、天候日程 雪の状況などの判断により、モンホーからのフランスルートに変更した。バァリスアルプスのスキー登山は、ブライトホルンを全員で、アラリンホルン アルプフーベルを西川、柴崎、田村の3人で登ることができた。出発から帰国まで、17日間といった十分な日程であったが、現地へ4月23日に到着後、1週間天候が悪く、天候が回復したのは、4月30日の翌週になってからという状況であった。 しかし、4月30日より、アルプスの天気も毎日快晴が続き、下記日程にて無事登山を終了した。
 尚、ガイドの方は、シャモニ在住の日本人ガイドで、2年前のオートルートをガイドしていただいた白野民樹氏の紹介で、モンブランガイド組合所属のフィリップ ガルニ氏(35才)にお願いした。


 日程  及び  行程                             
1  4月22日(土)成田出発13:55→ソウル→アンカレッジ→        
2  4月23日(日)アムステルダム経由 チューリヒ着9:00         
           チャーターバスにてシャモニヘ14:00シャモニ着     
3  4月24日(月)バレブランシュ氷河滑降                  
4  4月25日(火)悪天候のためシャモニにて停滞               
           イタリア側クールマイユール観光              
5  4月26日(水)悪天候のためシャモニにて停滞               
6  4月27日(木)シャモニよりタクシーにてブールサンピエールに移動     
           午後、ブールサンピエールにて停滞             
7  4月28日(金)ブールサンピエ一ルよりバァルソレイユの小屋を       
           目指すが天候悪化のためブールサンピエールに引き返す。   
           ブールサンピエールにて停滞                
8  4月29日(土〉ブールサンピエール→モンホーの小屋へ移動         
9  4月30日(日)モンホー小屋→ディス小屋へ                
10 5月 1日(月)ディス小屋→ビニエット小屋                
11 5月 2日(火)ビニエット小屋→ツェルマット               
12 5月 3日(水)ツェルマット→ブライトホルン登頂→ゴルナー氷河滑降    
           ツェルマット(泊)                    
13 5月 4日(木)ツェルマットよりタクシーにてザースフェーに移動。     
           アラリンホルン登頂(西川、柴崎、田村)          
           ブリタニアの小屋(泊)                  
          (岡坂、加藤は電車にてシャモニに移動。)          
14 5月 5日(金)アルプフーベル登頂(西川、柴崎、田村)シャモニに戻る。  
           シャモニ(泊)                      
15 5月 6日(土)シャモニ→チューリヒへ電車で移動。チューリヒ(泊)    
16 5月 7日(日)チューリヒ発11:55                  
17 5月 8日(月)成田着20:00                     

           以上の日程にて無事登山を終了した。            





4月22日 土曜日 成田→ソウル→・→・→
 東京駅八重州にて、全員集含し、箱崎シティエアターミナルにて、出国手続きを行い、成田より大韓航空で出発した。今回は、北回りである。チューリヒまで、アンカレッジ、アムステルダム経由であつた。成田→ソウルが約2時間、ソウル→アンカレッジが約8時間、アンカレッジ→アムステルダムが約8時間アムステルダム→チューリヒが約2時間、合計20時間(フライト時間)の長旅であった。

4月23日 日曜日 快晴 チューリヒ→シャモニ 
 チューリヒに現地時間午前9時に到着した。チューリヒよりシャモニまでは、代々木山幸ツアーのチャーターバスに同乗して、シャモニまで向かう。チューリヒ空港よりノンストップで3時間30分、快晴のシャモニへ無事到着した。
 虚空にそびえたつ、シャモニ針峯群、モンブランがすばらしい景観で我々を迎えてくれた。全員のシャモニの印象は、『とにかく空の色が違う。』とのことであった。 
 タ食後、白野氏より依頼していた、ガイドのフィリップ ガルニ氏と面談。今後の日程及び装備について打ち合わせを行う。装備の中でシットハーネスとビップス(雪崩埋没探知機)がどうしても必要とのことで、全員困ってしまった。シットハーネスはともかく、ビップスの方は、考えてもいなかったのだ。結局、白野氏の意見で『日本でも積極的に使うべき』とのことで購入することとした。
 日程の方は、当初の計画では、シャモニに到着翌日にすぐ、アルジェンチェール小屋に入る予定であったが、メンバー全員長旅の疲れからか、とても明日から山に入る元気がなく、高度順化を兼ねて、バレブランシュ氷河を滑ることにした。

4月24日 月曜日 バレブランシュ氷河滑降 
 午前8時ミディケーブル乗り場にて、ガイドのフィリップと待ち合わせる。ロープウェイを2本乗り継ぎ、富士山より高い、ミディ山頂まで一気に登る。快晴のミディ山頂からの大展望を楽しみ、バレブランシュ氷河の滑降地点まで、急な雪稜を固定ロープに伝わり下りる。ここからシャモニまで、標高差2000mの大滑降が始まるのである。ガイドのフィリップが先頭で滑りだした。シュプールのない斜面をどんどん滑って行ってしまった。ノーマルルートとは、あきらかに違う。
 バレブランシュ氷河滑降コースのルートは2つあり、今回はバリエーションルートを滑るようだ。このコースは、滑るスキーヤーがいないので、新雪斜面であった。ガイドのフイリップは、クレバスだらけの氷河を右に左にたくみにルートファインディングを行い、ほとんど休まずに滑り下りていく。 時々クレバスがあることを注意されるが、我々には、それが全然分からない。1時間程滑っただろうか、40度近い非常に急な斜面にでた。ここを横滑りで慎重に滑り下り、(白野氏の話では、ここは雪が少ない時は、固定ザイルが張って在り、懸垂で下りる事があるそうだ。)ルカンの小屋の前にでた。小屋の中に入り、暖かい飲み物(田村氏はビール)を飲み、初めて休む。コースはここから一般ルートと合流するわけだが、ガイドはあい変わらず、シュプールのない斜面を選んで滑り下りて行く。
 やがてメールドグラス氷河と合流する所にでて小休止。ここからは緩い斜面を、直滑降で滑り下りる。 斜度が緩く、スキーは楽しめないが、モアヌー針峯 ベルト針峯ドリュー グランドジョラスなどに囲まれた、このメールドグラス氷河は、実に気分がいいものだ。モンタンベール駅近くまで滑り、スキーを脱ぐ。ドリューを対岸に望む売店で冷たいビールで喉をうるおし、後はシャモニまで林道を1時間程で戻ってきた。夕方ガイドと明日からの行程を打ち合わせる。
ガイド『天候は下り坂だ。どうする』                       
我々 『ともかく明日は、始発のグラモンテのロープウェイに乗ろう。』       
ガイド『了解天気が悪くてもアルジェンチェールの小屋までは入れるだろ。』 
 以上のような打ち合わせをして明日に期待した。                 

4月26日 水曜日 小雨 シャモニにて停滞
 天気予報通り、今朝も悪天候で出発できない。西川、柴崎、田村の3氏は、レンタルサイクルでシャモニ観光、私と加藤氏は、スネルスポーツで買物などをして過ごす。ダハシュタインの山スキー靴が30000円、ラプラドのワンタッチアイゼンが6000円と安い。タ食後、ガイドと打ち合わせした。明日も天候が悪いようなら、タクシーでブールサンピエールヘ移動することに決めた。

4月27日 木曜日 午前雪、午後晴れ シャモニよりブールサンピエールヘ移動
 朝、目覚めると、シャモニは真冬なみの一面雪景色であった。 ワゴンタクシーにてブールサンピエールまで約2時間のドライブだった。ブールサンピエールは、予想していたより、はるかに小さい村であった。ホテルは2軒しかなく、その内の1軒は、まだオープンしていなかった。この村のバス停留所近くで、偶然、都職のパーティ3名と出会う。彼らはこの村で4日間停滞していたそうだ。さぞ退屈したことだろうと思った。 
ツェルマットヘ移動するという彼らと別れ、1軒だけオープンしている、Aubergedu Valsoreyというホテルに泊まる。外観は古びた田舎屋であるが、部屋の中はキッチンまでついた、ログハウス風のすばらしいインテリアであった。昼食後、ガイドの誘いで西川、柴崎、田村の3氏は、明日のコースの偵察を兼ねて雪の中、出かけて行った。私と加藤氏は、村を散歩と時間を過ごす。タ方になり悪かった天気も回復して、青空がひろがってきた。ガイドの話では、明日天気が悪くても、バァルソレイユの小屋までトライしてみるとのことなので全員明日に期待して早々と眠る。

4月28日 金曜日 雪 ブールサンピエールヘ引き返し停滞
 早朝6時前、窓の外をみるとひどい雪であった。昨夜、ガイドのフィリップから6時起床、7時出発と言われていたが、この雪ではとても出発する気になれない。フィリップに相談すると、さすがの彼もこの雪では、出発する気になれないらしく、しばらく様子を見るとのこと。9時過ぎ、小雪になってきたので、出発することとした。教会前の細い路地を少し歩き、シールを付け山道を速いペースで歩く。
 2時間程歩いた後、急な斜面の登りとなった。出発した時は小雪であった天候も、登るにしたがってひどくなり、とうとう視界不良となってしまった。昨日より降り続いた雪は、下層の固い斜面に積もり、極めて不安定な状況であった。いつ雪崩が起きても不思議でない。これ以上、登行を続けるのは危険だ。しかしこの不安定な雪の中、引き返すのもまた危険だ。と考えていたところ、ガイドから引き返そうと言われた。我々のシュプールを追って来た、大勢の他バーティも、我々のガイドの判断にしたがおうと、ガイドの動向に注目しているため、動かない。下りはガイドの指示で、登行のシュプール通り、シールを付けたまま、雪面にショックを与えないように滑り下りる。結局、本日登ってきた全パーティが下山していく。2時間程かかり、ブールサンピエールに戻ってきたが、加藤氏は下山中、スリップして50m程、流されたそうだ。出発から7時間、休憩なしの辛い1日が終わった。ホテルに落ち着き、明日からの行程について全員で話し合う。私は明日又、あの不安定な雪の中を、バァルソレイユ小屋まで登る気になれない。
また明日から天候が回復する保証もない。予報では、天候が本格的に回復するのは来週になるらしい。今後の日程などを検討した結果モンホーからのフランスルートに変更することに決定した。フランスルートなら雪崩の危険性も少ないし、明日どんなに天候が悪くても、モンホーの小屋までは、入れるだろう。日本を出発以来、明日で1週間になるというのに、行程を進められない焦りを、全員が感じていた。

4月29日 土曜日 曇り後晴れ ブールサンピエール→モンホーの小屋
 モンホーの小屋は、ベルビエスキー場の中に位置している。この小屋に入るには、ベルビエ又はル・シャーブルより、ロープウェイを乗り継ぎ、ひと滑りで到着することができる。そんな訳でブールサンピエールをタクシーで出発したのは10時過ぎという、のんびりとしたものとなった。40分程でベルビエの下の村、 ル・シャーブルに到着した。ここからロープウェイを2本乗り継げば、モンホーの小屋に滑りこめるのだが、早く小屋に到着しても退屈する。(こういった場合、現地の人たちは、のんびりと日光浴で過ごすのであろうが)モンホーまでのロープウェイ科金も、ベルビエスキー場の全リフト、ロープウェイが利用できる半日スキーパスも10SFしか料金が違わない。そこで午後は、このスキーパスを購入して、スキー場で楽しもうということとなった。雲の多い天気であったが、ロープウェイで上部に登るにしたがい、ガスが晴れてきて、ロープウェイから降りると、雲ひとつ無い快晴だ。モンブラン山群が谷を隔ててよく望める。
 すぱらしい景観をビデオに収め、モンホーの小屋目指し滑り込んで行ったが、標高差で200m程滑りおりるとガスのため、まったく視界がなくなってしまった。ガイドのフィリップは、下り過ぎたとの判断で、ゲレンデの中をスキーを担ぎ、登りながら小屋を捜すが、小屋は見つからない。立ち止まって地図と高度計で現在位置を確認していた時、偶然、スイスのガイドが客を連れて滑り下りて来た、彼に数えられ、ようやく小屋を見つけることができた。この小屋はゲレンデの中にあるため、スキーヤーで満員であった。
 私は、明日のディスまでのロングコースに備え、加藤氏と小屋で休養したが、西川、田村、柴崎の3氏は、小屋にてひと休みした後、予定通りガイドとスキーに出かけて行った。2時間程して帰ってきたが、アトラス(ベルビエスキー場の最高峰3800m)までロープウェイで登り、明日登るショーのコルまで行って来たとのこと。 歩かずに、ショーのコルまで登れるなら、明日のディスまでの行程も随分と楽になるのだが、残念なことに、ロープウェイの運行時間を待っていたならぱ、ディスの小屋まで行くのは、時間的に不可能である。なお本日のモンホーの小屋は、オートルートのツアーに行く人たちで満員であった。

4月30日 日曜日 晴れ モンホーの小屋→ディスの小屋
 オートルートの各小屋のなかで、モンホーの小屋の朝が一番早い。3時には、いっせいに起こされる。パンとコーヒーだけの簡単な朝食を食べ、早朝4時半ヘッドランプの明かりを頼りに出発する。まずは、ショーのコルまでの600mを登らなければならない。先行パーティのヘツドランプの明かりが、ショーのコル目指し、点々とつながっているのが見える。ショーのコルまで1時問半の登りであった。6時に標高2950mの最初の峠である、ショーのコルに到者した。シールを外そうとしていたら、ガイドより、シールを付けたまま滑るように指示された。私のボモカのシールは少し滑るとすぐ外れてしまう。ボモカのシールは、ビネッサのシールのように、滑走面にシール糊が付着しないし、登行性能もいいのだが、現在のような、気温の低い時は、(ショーのコルの気温は−15度であった。)問題があるようだ。
 標高2700mまで斜面をトラバース気味に滑りおり、今度はコルドモマンを短時間で登り、緩い斜面をコルドクリューソンを目指す。 コルドクリューソンからの下りは30度以上の急斜面で、雪が堅い。私は、早ばやとシールを外して滑り下りたが、シールを付けたまま滑った、他メンバーは、下りるのに相当苦労した。尚、このあたりは、雪崩がよく発生する場所で本日もデブリの跡が見られた。ここは気温の低い午前中に通過するのが鉄則である。全員が 無事滑り下りるのを待ち、今度はセブローのコルを登る。
 セブローのコルからディス湖までの、標高差600mの斜面が本日で最初で最後の、滑りが楽しめる斜面である。全員の滑降をビデオに収めながら滑り下りたが、ディス湖に近づくにつれ、ガスのため視界不長となった。ルートは、ディス湖の取り入れ口のパドシャーまで、湖にそって4kmの長いトラバースにはいるのだが視界不良のため、ルートファインディングがむつかしくガイドは、滑ったり、登ったりしながら、バドシャーヘのルートを捜す。咋日のモンホーの件があるので、ガイドのルートファインディングに不安があったが今度は、さすがにピタリとパドシャーにでた。ここで初めてゆっくりと休憩する。
 アルプスのガイドは、行動中、休憩を取らないと聞いていたが、まさにその通りで、本日もモンホーの小屋を出発して以来一度も休まない、食べないでここまで来た。我々はこのパドシャーで休みながら行動食を少し口にしたが、ガイドはあい変わらず何も食べなかった。パドシャーよりディスの小屋までは、シェイロン氷河を標高差550mを登るだけである。しかし、ここまでの行程でかなり疲れているのと、氷河の中、日差しの照り返しが強く、辛い登りとなった。 特にディスの小屋が見えてからが長かった。
 第一グループの西川、田村、第2グルーブの加藤、柴崎に遅れること30分、バテバテになりながら、10時半にようやく、ディスの小屋に到着することができた。 正面にモンブランシェイロン(3869m)奥にはピンダーローラー(3796m)とそれらの山を取り囲む、シェイロン氷河の大展望のこの小屋は、アルプスの真っ只中にいる感じで、真に気分のいい所に位置している。 しかし本日のこの小屋は、オートルートをツアーする者でいっぱいで、くつろぐ場所もなく、夕食も2交代で取る有様であつた。

5月1日 月曜日 晴れ ディス小屋→ビニエット小屋
 昨夜は、ガイドのフィリップが、『ビニエットの小屋もディスの小屋以上に混んでいるだろう。』との話しで、それなら、いっそうビニエットに泊まらないで、一気にツェルマットまで行こうかとの話しになった。 西川、田村氏の体カなら問題ないだろう。
 加藤、柴崎氏も現在の調子なら大丈夫だ。しかし私の現体調では、とても無理だ。必ず足を引っ張ることになるとの判断で、今日の行程は、予定通りビニエット小屋までとした。昨夜は、眠ったのが遅く、また、早朝出発するパーティのざわめきに起こされ、充分な睡眠が取れなかった。メンバー全員、早朝に出発する元気がない。そこでガイドの了解は得なかったが、他パーテイが出発していった後のベッドに潜り込んで、日がすっかり登るまで眠ってしまった。そんな訳でディスの小屋を出発したのは、8時過ぎという極めて遅い時間となってしまった。
 ディス→ビニエットの行程は、オートルートの中でもっとも楽な一日である。シェイロン氷河をピンダーローラーまで、標高差900mを登れば、後はビニエット小屋までの楽しい滑りが待っているだけなのだから。遅く出発しても、時間的には、十分余裕があるのだが、アルブスの登山原則には合わない。アルプスの登山原則は、早朝の雪の安定している時に登り、出来るだけ早く小屋に到着するのが鉄則なのだ。
 2年前の同じ日に、菅沼氏、遠山氏などと、このシェイロン氷河を登りながら、モンブランシェイロンが頂上より序々に朝日に染まるのを見てシール登行を続けたものだが、今朝のモンブランシェイロンはまるで印象が違って見える。
 ガイドは、あい変わらず、早いペースでドンドン先に登る。だれも彼のペースにはついて行けない。ガイドのフィリップは、入山以来風邪を引いて体調が悪いらしく、昨夜は熱があった。アスピリンを飲んでいたが、信じられない体力である。私は、バテバテで、全員のペースについて行けず、どんどん離される一方であつた。セルバンティーヌ・コル直下の急斜面は、スキーアイゼンを付けて登ることが多いのだが、今日は雪の状態がいいので、シールのみで快適に登れた。 コルにでると、だだ広い斜面がピンダーローラーに続く。このあたりは、ガスがでて視界不良となれば、極めてルートファインディングがむつかしい所である。私は、ピンダーローラー山頂へ行く元気がなく、ガイドと肩のコルで待機して、西川、加藤、柴崎氏が山頂より滑り下りてくるのをビデオに収める。 ピンダーローラーからビニエットの小屋までの斜面は、雪質もよく、正面にマッターホルン、ダンディランを見ながらの滑降は最高であった。 モンコロンを背に断崖絶壁に建つ、ビニエット小屋に13時に到着した。小屋は予想していた程の混雑ではなかったが、部屋はタ方にならないと決まらないとのことであった。ひと休みした後、田村、西川、柴崎のストロング組はアローラー側の氷河にスキーに出かけていった。しばらくしてガイドのフィリップが、かんかんに怒って私の所に来た。 

ガイド 『2〜300m程、遊ぷと言っていたのに、西川らは、あんなに遠くに行っ  
     ってしまった。しかも空身とは、ここは山なのだ。クレージィだ。』 
さらに 『彼らが滑って行った氷河は、ヒドンクレバスが多く非常に危険だ。』 
私が  『事故があつても、フィリップ、あなたの責任ではない。』 
ガイド 『山の中の事故は全てガイドの責任だ。』 

とかんかんに怒っている。2時間程して、全員無事に小屋へ戻ってきたが、その間、ガイドは小屋の高台から、ずーっと操子を見ていた。
 後でガイドより『小屋の外は、山なのだ。ゲレンデではない。山に(氷河)入るときは、シットハーネス、ビップス、さらにクレバスに落下した場合に引き上げるザイルを持つのは、常識だ。』と叱られてしまった。
 ビニエット小屋は、クラシックルートと合流する所なので、いつも混雑しているが幸い今夜は、予約していない我々も、部屋に落ち着くことができた。しかしタ食は咋日と同じく、2交代で食べさせられた。今夜の食事は、スープ、ハムステーキ、いんげん、グリーンピースなどの温野菜、マッシュドポテトといったものであった。ちなみに、昨夜のディス小屋の夕食は、肉がタップリ入ったカレーライスがメインデイッシュであった。アルプスの小屋の食事は、朝食がライ麦パンとコーヒー又は紅茶かココアといった、簡単なものだが、夕食は、どの小屋もスープから始まり、ポリュームタップリのものが普通である。また小屋で売られている、ビールなどの価格も町での価格とそれ程違わないのは気分がいいものである。

5月2日 火曜日 曇り後晴れ ビニエット小屋→ツェルマット
 4時半にいっせいに起こされたが、我々はガイドの意見で、ゆっくりと朝食をとり、6時半に出発することとした。3日間続いた晴天も今日の午後あたりから崩れそうな雲行であつた。小屋からスキーを担いで氷河に降り立ち、スキーを付けようとした時、私は現金とパスポートを入れた、貴重品入れを寝室に置き忘れたのに気がついた。あわてて、取りに戻ったがもう少し気が付くのが遅れれぱ、大変なことになるところだった。
 ビニエットからツェルマットまでは、3つの峠を越えなければならない。最初の峠であるレベックのコルまでは、わずか標高差230mの登りである。しかし距離が6km近くあるので、けっこう時間がかかる。緩い氷河を約1時間半、8時10分にレベックのコルに着いた。ツェルマットまでは、まだまだ遠い。この峠からアローラー氷河まで、標高差450mのダウンヒルであるがガイドは天候が気になるらしく、『すぐシールを付けられるように、シールはヤッケのポケットに入れておくように』との指示があった。東の空を見ると、天候は明らかに悪くなる兆しだ。ビデオを取りながら、ゆっくり滑り下りたいところだが急がなくてはならない。滑降を楽しむ余裕はない。アローラー氷河にて、再びシールを付け、今度はモンビューレーのコルを目指す。左側の高台にブクタンの避難小屋がよく見える。緩い登りがしばらく続いた後、モンビューレーのコルに出る急斜面の登りに入った。30度以上の斜度があり、シール登行の限界であるが、幸い、雪が堅くないことと、先行パーティのトレースのおかげで、なんなく登りきった。 
 2年前は、ここで、ゆっくりと腰を下ろし、正面のダン・ディランを見ながら、ゆっくり休んだものだが、今朝は、曇り空と強い風で、行動食を少し口にしただけで出発する。高度差200mをトラバース気味に滑り、ツアン氷河に降り立つ。そして再び緩い氷河の登りとなつた。天候がよくないのは気がかりだが、暑くないので助かる。あい変わらずガイドは速い、とうとう先に行って見えなくなってしまった。ツェルマットまであと1つの峠を越えれぱいいのだと自分に言い聞かせ、バァルプリンのコルに続く、最後の急な登りを頑張る。登るにしたがい、マッターホルンが序々に全貌を現わす。オートルートでもっとも、感激するところだ。 初めてこの展望を目にした、西川、田村、柴崎、加藤の4氏は、さぞ感激したことだろう。曇りがちだった、天候もバァルプリンのコルに着く頃、すっかり晴れてきた。マッターホルンをバックに全員で記念写真を取り、ゆっくりと休む。ここ、バァルプリンのコルは、マッターホルン、ダン・ディラン、ダン・ブランシュ、ワイスホルンといった、バァリスアルプスの大展望台だ。バァルプリンのコルからツェルマットまでのツムット氷河は、15kmにおよぶ大滑降である。
 ルートは、セラック帯の間をぬって滑るところもあるので、視界不良の時は、アンザイレンして滑るそうである。幸い今日は、天候も安定しているし、雪の状態もいいので何の心配もいらない。ツェルマットまでの最後の滑降を各自のペースで滑りおりていった。落石が多いことで有名な、マッターホルン北壁のトラバースも、今年は、雪が多いためか、落石はない。シェーンビエールの小屋が近くに見える所でしばらく休み、30分程で、標高2200mのシュタッヘルアルプに無事到着した。マッターホルンを正面に見るこのレストランは、すでにツェルマットのスキー場の一部であり、今日も昼食時のせいか、スキーヤーが多い。 このレストランで食べた、ソーセージ入りのスープはうまかった。シュタッヘルアルプよりツェルマットヘは、林道をフーリーまで滑り、ロープウエイで町まで下りるのが普通であるが、今回は雪が多く、どうにかツェルマットまで滑り下りることができ、モンホー〜ツェルマット間のオートルートを無事終えた。
                                 (岡坂 記) 

【オートルート全体概念図】

オートルート後半 5/3〜5へ> 

【コースタイム】 
4月24日 月曜日 (バレブランシュ氷河滑降)
 ミディ山頂       8:50 
 ルカンの小屋     10:00〜10:50
 モンタンベールの売店 11:55〜12:30 
 シャモニ着      13:30

4月27日 木曜日 (シャモニ→ブールサンピエールへ移動) 
 シャモニ発       8:35 
 ブールサンピエール着  9:55                       

4月28日 金曜日 (ブールサンピエールにて停滞)               
 ブールサンピエール発  9:30                       
 標高2540m地点  13:30〜14:00                 
 ブールサンピエール着 16:15                       

4月29日 土曜日 (ブールサンピエール→モンホーの小屋)           
 ブールサンピエール発 10:00                       
 ル・シャーブル着   10:45                       
 ロープウェイ終点着  11:30                       
 モンホーの小屋着   13:45                       

4月30日 日曜日 (モンホーの小屋→ディスの小屋)              
 モンホーの小屋発    4:35                       
 ショーのコル      6:00                       
 セブローのコル     8:45                       
 パドシャー      10:00〜10:30                 
 ディスの小屋     13:00                       

5月1日 月曜日 (ディス小屋→ビニエット小屋)                
 ディスの小屋発     8:30                       
 ピンダローラーの肩  11:15〜11:50                 
 ピンダローラー山頂  12:10〜12:30                 
 ビニエット小屋    13:30                       

5月2日 火曜日 (ビニエット小屋→ツェルマット)               
 ビニエット小屋発    6:20                       
 レベックのコル     8:00〜 8:10                 
 モンビューレのコル   9:25〜 9:35                 
 バァルプリンのコル  11:35〜12:00                 
 シュタッフェルアルプ 13:20〜14:40                 
 フーリー       15:05                       
 ツェルマット     15:50                       


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付録
使用装備リスト 
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