Last Update : Feb 19, 1998

「シールについて…’96−5月連休中のシールトラブルから」
                 小森宮 秀昭


 ’96−の5月連休の山行では、グサグサのクサレ雪や水雪、クラスト、フワフワの新雪、アイスバーンと、およそ山で遭遇しそうな雪に全て出会ったと言ってよい程だった。 
その際、いくつかのシールトラブルが発生し、雪質の問題というよりは、シールの選定や準備に若干問題が有ったようなので、新規に用具を購入する際や、山行前の準備などの参考になればと、これまでの経験を踏まえて、気が付いた点についてまとめてみた。 また’98−2月現在の情報も加えてみた。

内容−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 

シールのスリップについて
  1.シールの巾とスキーの巾のマッチング
  2.シールの毛足の長さ
  3.シールを使った登り方
シール植毛面への雪の付着
  ・WAXの携帯               
  ・スクレーパの携帯             
シールのはがれ】     
  ・糊の厚さ                 
  ・糊の塗り足し               
  ・はがれ対策                
  ・ワックスの処理              
  ・その他                  
シールの長さ調整について
シールの取付方式に関して
  ・トップのゴムバンドなど          
  ・テールのフック              
  ・切り放しタイプ              


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シールのスリップについて

 スキーよりシールの巾が12mm程狭かった例では(ここでの巾というのは、もちろんスキーのウエスト部の巾を指す)、毛足がかなり短い部類のモヘアであった事も重なって、薄く積もった新雪斜面や、硬い雪面のトラバースで後ろに極端にスリップし易くなり、スキーアイゼンを付けてみても(サイドスリップには有効でも)、後ろへのスリップ防止には効果が低く、山行への意欲を無くしかねない程、苦労した事例が発生した。 私自身もこれほどではないが似たような経験が有り、シールの選定が非常に重要であることを改めて認識させてくれた。

※ここではシールの登坂性能に関わるものを3項目にまとめてみた。
  1.シールの巾とスキーの巾のマッチング          
  2.シールの毛足の長さ                  
  3.シールを使った登り方                 

1.シールの巾とスキーの巾のマッチング

・後ろへのスリップを減らすには、シールの巾は足下のスキーの巾にピッタリ合ったものを使うとよい。
・スキーのエッヂは露出しない方がアイスバーンの登りにも強い。

・少なくとも、スキー中央部とシールの巾の差が5mm程度以内が望ましい。

・あとで述べる「毛足の長さ」が短い場合、この「巾」がより重要となる。

※私の場合は、山スキーやテレマークなど、使う板の巾に合わせてシールを使い分けてい
る。この時も山スキー用テレマーク用といった、うたい文句ではなく、実際のスキーの巾を測って合わせる事が必要。普通、1つのメーカーで数種類の巾のシールがあり(販売店の都合で全部を揃えていない店も多いが)そのなかから選ぶことになる。        
 例:あるメーカーでは、64mm、60mm、55mm、48mmなどがある。    

2.シールの毛足の長さ
・毛足の長いものが当然ながら登坂性能に優れており、特に新雪時に後ろにスリップしにくい。(この辺の議論については岩さんの持論と若干ずれがあるようだが)

・登坂性能について言えばモヘア、ナイロンなど材質の区別より、毛足の長さや、密度、方向性が大事。

・前方への滑走性は良いにこした事は無いが、同時に後ろへも滑り易いのは本末転倒。

※私自身が、
 ビネッサ貼付(ナイロン、巾66mm、毛足6mm)、 
 モンタニール貼付(ナイロン、巾66mm、毛足4mm)、
 コルテックス・モヘア貼付(モヘア、巾60mm、毛足3mm)
の3種類を使ってみた限りでは、やはり毛足の長いものが登坂性能にすぐれており、とくにビネッサ貼付(ナイロン)は、殆どの条件でスリップ無しで安心して登ることができる。また登坂性能を優先して選んだものでも、前方への滑走性に不満を持ったことは無い。毛足の短いものを使う場合には、スリップし易さをカバーする為に、前にも述べた通りスキーの巾にシールの巾を合わせることがより重要になってくる。       

 過去に、山行を共にした仲間のなかで比較した限りでは、ビネッサとジルブレッタのシールが登坂性能その他でベストと言えたが現在はこの両方とも生産されていないので、これから購入する人には無意味に聞こえると思うが、実際に山でこれらの10年以上前のシールを使っている人はまだかなりいるので、機会を見て比較してみて欲しい。    

※ここでは私自身が使っているものを引き合いにだしたが、既に生産されていないものも 
 含まれている為、最近会員が使用しているものの中から、目に付いたものをあげると、 
■ 岡坂氏が使用しているフリッチ(モヘア、巾63mm)は、比較的毛足が長く密度もしっかりしていて登坂性能はかなり良い部類とのこと。粘着力も強力で今迄トラブルも無く、良さそうである。

■ 紫色のシール面が特徴的なアセンション(ナイロン、巾64、60、55、48mm) USAは、厚い粘着面と比較的長い毛足から、登坂性能はかなり良さそうである。

■ アセンションに関しては最近モヘアも発売された。(巾は上記と同一)

■ フリッチとアセンションを比較して使ってみた人の話では、新雪の時期などの低温の条件では、粘着力はアセンションの方が強いとのこと。フリッチは低温で若干はがれ易かったようだ。

■ アセンションで1つ欠点をあげるとすれば、2つのタイプのうち、トップがゴム+フックのタイプの方はゴムが他のメーカーに較べてかなり硬いようで、力の弱い人からは、取付けるのが大変だとの意見もあった。私がやってみた限りでは確かに硬いが取付かないほどの物でもないとも感じたが。

※ 登坂性能では上記のものが、従来のコルテックスなどよりも優れているようである。

※ ここ迄の議論も、毛足の短いコルテックス・モヘアを問題無く使用している方もいるようなので、あくまでも相対的な比較論として見て頂きたい。

※ この他のメーカーとしては ポモカ 、モンタナ などがありますが、今の所私の見た限りでは、若干見劣りする感じでした。もちろん全部を自分自身で実地に確認テストをしたわけでは無いので、見ただけで判断するのは判断を誤る可能性は当然有るわけですが。(例えば、私はポモカは使ったことが無い等)

3.シールによる登り
 一般的にシール登行のコツと言われているものを、いくつかあげてみると、
・シールの接触面積を広くすることで、シールの機能を最大限に生かすことが出来る。この為アイスバーンのように踏み込んでも変形しない場合には、滑降時のスキーのようにエッジングしてしまうと、シールがスリップしやすいので、なるべくフラットにすると良い。また叩きつければ凹む程度のクラストならかえってエッジングした方が良い場合も有る。

・どんな雪質でも前へ出したスキーにしっかりと体重を乗せるとスリップしにくい。この時、まえかがみで無く、胸を張って足首をしっかり曲げ、グッと腰に体重を乗せていくとよい。足首が曲げにくい靴では、クライミングサポートを斜度に合わせて効果的に使うこと。逆に平地ではサポートをしたままでは疲れることになる。

・新雪などで特に滑りやすい条件では更に、瞬時に体重を乗せるよりも、ググーッと乗せ換える時間を一瞬長くとると、スリップしにくい。(シールに噛み込んだ雪と、雪面の雪が体重を乗せることで結合して荷重に持ちこたえられる迄に、瞬時と言えども時間が掛かる為らしい。)

・ラッセルが必要な新雪では、トップよりも後続の方がスリップし易くなるので、パーティ全体の能率を考えるなら、当然トップは自分の限界ではなく、後続を考えた斜度をとるべきなのは言うまでもないことなのだが、後続が出来る工夫として、条件次第で踏んだあとをトレースした方が良い場合と、逆にスキー1本分、横にトレースを外すことで登り易くなる場合も有るので、臨機応変にトライしてみて欲しい。

 考えつくものをいくつかあげてみたが、この辺のところは、もっとシール登りのうまい 
人から秘訣を公開してもらった方が良いかもしれない。                

シール植毛面への雪の付着                          

 事前にシール植毛面へ、シリコンスプレーで防水処理をしておいたり、ワックスを良く塗り込んでおいたとしても、水気の多い雪の後に新雪に会ったりすると、どうしてもシー
 ルに雪が付いてしまうものです。
・このような時にシールの植毛面に塗る固形ワックス(何でも良い)は、忘れずに携帯するようにしたい。

・また雪が付着してしまった時の為に、スクレーパを持っていれば粘着面や滑走面の凍結時にも対応できる。(私は小型のメタルとプラのコンビタイプが良いと思う。)

シールのはがれ…シールの粘着面について(粘着材は「糊」と略称)
・新品であっても糊の薄いものは、新雪などの条件により、一寸したきっかけで使用中に簡単に、はがれてしまう事が有る。というより山の中で取付ける時に全くといって良いほど粘着しなかったという実例も有るので、このようなものは事前に糊を塗り足しておくことが必要。(とくにコルテックス)(5月でも新雪が降ることはあるので油断は禁物。)

・シールの長さ調整が適切でないと、はがれの原因となることがある。

・滑走面へのワックスの処理の不適切や、ワックスそのものの不適当も、はがれの原因となる。

※シールのはがれという点で私の経験した範囲では、コルテックスがこの傾向が強く、新品でも新雪のなかでほぼ全面で見事にパラリと、はがれてくれた。その後、同社の糊を塗り足しただけでまったく問題無く使用できているので、糊の性質というより単純に糊の厚さという物理量が関係しているようである。糊の厚さと使用中にできる糊の凸凹に対する追従性(粘着力)との間に相関があるようで面白い研究課題かもしれない。

※それはともかくとして、山の中でこんな事態が起こるのは絶対避けたいので、自衛策としてこのような糊の薄いシールの場合、事前に糊を塗り足しておくほうが賢明。

※また、糊を塗り足してあれば、山で新雪を付着させてしまい表面が凍結した場合にもスクレーパで雪を削り(スクレーパが無い場合にはスキーを立てておいて、そのエッジでしごいても代用出来る。)あとは叩くようにすることで充分粘着させることが出来る。私の場合、塗り足したシールで今迄この方法で対処して付かなかった事は無かった。もちろん糊の薄いままのシールでは、この方法でも粘着させる事が難しい。

※このような時の応急対策用として一般的にはガムテープを持つ事になるのだろうが部分的なはがれならともかく、全面ではがれた場合、ガムテープで貼ったものでは非常時でやむを得ないとはいえ、横ズレがひどくて山へ登る気も無くしかねない。(だからといってガムテープを持たないというのも考えものだが)

 これに関連した話題として、数年前に、福島県の家形山で山スキーでの大量遭難があった時のNHKのドキュメンタリ番組で、シールトラブルで持っていたガムテープを使い果たしてしまったり.....
のくだりなどを思い起こすとガムテープでの対応にも限度があることを知らされる。
※ シールはがれの応急対策用として即乾性のスプレー糊が販売されている。シール全面に塗ろうとするには1本では、とても足らない量だが、部分的な、はがれの対策には役に立つようだ。
しかしこれでは糊の薄いシールを山に持ち込まれた場合に、全面ではがれてしまうと1本では糊の量が不足して対応不可能。
   だいいち降雪時などの気象条件下で糊を塗り足す事が出来るのだろうかと考えると(こんな時ほどシールが、はがれたりし易いものだ。)
   やはり山に入る前の事前の準備(粘着面の確認と糊の塗り足し、植毛面へのWax)が不可欠ということになる。
 上記の糊は即乾性で比較的すぐ使えるが、下記にしめす通常のタイプの物は溶剤の残留による糊の滑走面への転移を防ぐために、少なくとも1昼夜、出来れば数日間の乾燥期間をとりたい。

※糊の種類については、私自身はコルテックスの75mlチューブ入り(中身が赤い色のドロッとしたやつ)しか使ったことが無いので各社の比較はできない。このチューブ1本で、2人分のシールが塗り足しできる。塗り替えならば1本を使いきる位だろうか。 

※製品レベルで粘着力が強力なアセンションのシールに使われているという缶入りの糊『ゴールドラベル』を別のシールに塗ってはいけないという決まりは無いので、糊に不安を感じている人は試してみる価値はありそうだ。¥1000./113gr(タマキスポーツ、カラファテなどにあるようだ)

※糊の塗り足しや塗り替え間隔は、使用頻度や使い方により、かなり違うようだが、私の場合、ビネッサを使用 150日間程度の間に、(この間、10数年経過)古い粘着剤をはがして塗り替えたのが2回。塗り足したのが2回だった。

※スキー滑走面のワックスの処理が不適切だと、シールはがれの原因となる。
 とはいえ、ワックスを生塗りしたままで、コルクで磨かずにそのままシールを貼ってしまうというようなうかつな事が無い限り、生塗りした後にコルクや軍手で磨く程度のことで充分使用できるので、それほど気をつかうことは無い。
 勿論ホットワクシングが可能ならば更に滑走性が良くなるのだろうが私はまだ試していない。
 また最近では見掛けなくなったが、昔有った銀パラだけは使わない事。へたをすると全く粘着力を失うことになってシールが使い物にならなくなるという重大な事態になりか
ねない。
 最近良く見かけるティッシュタイプのワックス(Brikoなど)は軽量且つコンパクトで、降雪中などでなければ良さそうだ。
 結局、山の中でのwaxには、固形タイプを生塗りしてコルクで磨くというのが一番、実用的かもしれない。

※家を出る時からスキーにシールを貼り付けてしまうのは、電車や車の暖房など山で使う時に比較して高温にさらす事になり、ワックス処理してあるスキーでさえ糊が滑走面に転移して苦労する事になるので、シールで登る場面になってから貼り付けた方が良い。 

シールの長さ調整について…はがれの一因を防止する為に。            

・テール側が切りっ放しのものは、はがれ防止の為、切った角を丸く落としておく事。
 長さはスキーのテールより50mm程度短くすれば良い。もっとも、このタイプの場合、例え200mm短くてもたいした不具合も無く使えてしまうので、予備のシールとして持つには適しているかもしれない。
かえって長過ぎて、スキーのテール部分で折り返して使うと、はがれの原因になるので、適切な長さまで切断して使うこと。

・テールフック+トップゴムフック…トップ側の折り返しをあまり長く(100mm位)すると、特にトップベンドの浅い Dynastar−yetiなどの板ではトップに雪を噛み込み易く、はがれの原因となり易い。
またこのタイプは、ゴムをあまり引っ張り過ぎない事も、はがれを防ぐコツと言える。
…糊は連続した引張力には弱く、はがれの原因となる為。

シールの取付方式に関して                           

  取付に関しては、どの方式も、それなりの特徴や長所短所はあるが、致命的な問題では無いようなので、自分の好みに従って選べば良いようです。            
 一応の特徴をあげると、                             
・私自身はトップ側がゴムバンドの取付は、あまり好きではない。
足くせが悪いせいか、特に深雪のラッセル時など自分のスキーでこの部分を蹴飛ばしてしまい、シールが外れて新雪まみれとなり、粘着面に凍結した雪を削って再び取り付けるまでに一苦労などと言う経験を何度もしたせいかもしれない。
 以前あったビネッサ(Vinersa)のような、ナイロンベルトと金具による方式があれば心配無いと思うのは私だけでしょうか。

・テール側にフックの有るものは、ビネッサ方式が無い現状では、当然トップ側が前述のゴムバンド方式になってしまうのだが、テールフックそのものは、深雪のラッセル時な 
 どかなり乱暴に扱ってもはがれにくい。
また取り外す時に、シールの末端部分に手掛かりとなるプラスティックフィルムを貼っておく必要も無く、粘着面同志を無造作に貼 
 り合わせても、はがす時に苦労することも無い。
 ただこのタイプの欠点といえるのは、後続の人に踏まれてフックが引っ掛かり、うっとおしい思いをしたり、フックを壊したりといった可能性があることかもしれない。

・テールが切りっ放しのタイプは、比較的ベテランが好んで使う傾向があるようだが、(5月連休にガイドしてくれたシャモニーのガイド、ベルトランもこのタイプが好きだと言っていた。)その扱いには若干の工夫がいる。
と言っても難しい事では無く、はがす時に前述のフィルム等を末端に貼っておき、貼り付ける時の手掛かりにするとか、テール部分の粘着面を汚して、はがれの原因を造らぬよう扱いに注意するなど、ちょっとしたことに気を付ければ良いだけなのだが。
ただ、このタイプの場合、深雪でのラッセル時などには、若干はがれに対する不安が残る。

  以上、この連休中に起こったシールトラブルがきっかけで、思い付いた点を書き連ねて来ましたが、私自身の経験の範囲でしかものを見ていないので、もっと良い解決法も有ると思います。
  この辺の議論をクラブの中で活発にして頂くきっかけになれば幸いです。また、ここ迄書いてきたような七面倒くさいことから全く解放されて山スキーの楽しさに没頭出来たらなあと思う反面、だからこそ山の中でトラブルを起こさないように準備が必要だと言えるかも知れません。
 (私もそうなのですが、道具のウンチクに興味がある方は決して少なくないとも思いますが) 

以上


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メールの宛先:
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