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ラ・ネージュ山スキー記録集III 


  発行日 1989年12月25日

北アルプス縦走 3                

北ア南部  薬師岳より樅沢岳へ

                         1989年5月3日〜5月6日 
              メンバー:L菅沼博、馬場修爾、井村修康、手塚紀恵子 

5月3日 曇のち雷雨 
 ゴールデンウイークの超満員の列車からようやく解放されて、神岡からタクシーで打保の集落へ。ゆるやかな山裾に点在する民家の庭先は、黄水仙の花盛り。好ましい山村の早春の風景に気分は早くもリフレッシュ。タクシーはやがてジャリ敷きの凸凹の激しい道をゆっさゆっさとあえぎ登ってThe end。ちなみにこの凸凹道の料金は2割増。それでも当初この部分は歩く予定だったと聞けば、もうけもんだと誰もが思う。
 スキーをかついで神岡新道を登り出す。雪解けのぬかるみやはだれ残雪を踏みながらの道はけっこうな急登で、ヤブにスキーをひっかけたりしいしいどんどん高度をかせぐ。
道は、尾根を一本乗越して小さな沢に一旦下り、対岸からいよいよ北ノ俣岳に連なる長大な尾根に取りつく。この沢べりには、ポカッと残雪の中に小さな池ができていて、水芭蕉とリュウキンカがちぢこまって咲いていた。
 ここからスキーをひっぱり、あるいはシールをつけて登り出す。北アの主稜線は雲の中で、寺地山に着く頃にはあられが降り出し、遠く雷鳴まで聞こえてきてしまう。山頂からは少々樹間のせまいデコボコの尾根の滑降をしばし楽しみ、再びスキーをひっぱって登り出す。あたりはすっかりガスの中で避難小屋を見落とさないようにと注意して進む。小屋は、ちょうど森林限界あたりで、そこから北ノ俣岳への広大なスロープの始まる所にあった。
 赤い屋根の小ぎれいな小屋ながらその狭さ。12人泊まって1人分シュラフ一枚分のスペース。しかし、この悪天下では致し方ない。後から来たパーティーは、この混雑ぶりに遠慮して外にツエルトをはってくれた。この方々には申し訳ない事ながら、超満員にならずにありがたかった。

                                  (手塚記) 
【コースタイム】 
奥飛騨温泉口 −(タクシー:7,250円)−> 神岡新道登山口 8:50 −> 
水の平 10:45/11:05 −> 寺地山 13:30/40 −> 北ノ俣避難小屋 14:25


5月4日 晴 
 すばらしい晴天に、スキーをひっぱりつぼ足で北ノ俣岳近くの稜線をめざす。固い雪ながらアイゼンがほしい程の傾斜はない。主稜線に出ると、北アの峰々がくまなく見渡せる。ここからスキーをつけて太郎平小屋まで一滑り。足裏にビンビン伝わってくる固雪の感触が、刺激的、太郎平小屋に荷を置いて、薬師岳をめざす。今日は「薬師岳滑降レース」の行われる日だとかで、登山者が多い。炎天下のだれる登りも2時間余りで山頂へ。
 山頂から南東のカール状斜面に滑り込む。滑り出しはまあまあながら、下部は軟雪の重い抵抗の大きい雪で、カールの底に着く頃には、真昼の太陽の照り返しと共に、すっかりいやになってしまっていた。避難小屋より伸びる「東南尾根」に登り返し、当初薬師沢右俣を滑るつもりでいたが、やっぱりやめて、トラバースして登山道に出る。登山道のある尾根の方が雪が固めでよっぽど滑り良かった。
 時間も天候も今日は充分にあり、薬師岳でポケーッと時間をつぶす。一人別行動をとって薬師に向かっていた馬場さんもここで待っている間に降りてきて合流した。小屋に戻ってからも時間は充分あって、それぞれ自由な午後を過ごす。滑降レース出場の人やらガイドのお客さんやらで、小屋もけっこうなにぎわいで、北アの最深部ってふんいきは全く無い。ちなみに、滑降レースの上位入賞者は皆準指とか一級とかの腕前の人々で、やっぱり「うまい事は速い事」と当たり前の事に当たり前の感心をしてしまう。

                                  (手塚記) 
【コースタイム】
小屋 5:45 −> 稜線 7:35/8:00 −> 太郎平小屋 8:30/9:25 −> 
薬師峠 9:35/40 −> 薬師岳 11:40/12:05 −> 東南尾根2860m 
12:40/13:00 −> 薬師峠 13:15/14:00 −> 小屋 14:15


5月5日 晴のち曇
 5時に起床する。今日は長いルートなので早起きだ。既に小屋を出発したパーティーもあるようだ。出発の準備を整え食堂で朝食を取る。6時前に太郎平小屋を出発する。 
既に朝日は昇り空は晴れている。北ノ俣岳までは緩い登りなのでシールで登る。途中一本を入れて北ノ俣岳に着いたのは7時20分だった。ちょうど北アルプスを越えていく気球を見かける。頂上では雷鳥も間近に見かけた。昨日見えた加賀白山が薄雲に隠れて見えない。天気が崩れる前兆か?7時30分、北ノ俣岳を出発する。途中の赤木岳などの登りは避けるようにしてトラバースしながら、ほぼ稜線伝いに滑る。黒部五郎岳の登り手前で一休みし、登りにかかったのは8時30分頃だった。急登にスキーをひきずりながら喘いで登る。途中からカールの縁を巻くようにして頂上に着いたのは9時40分だった。休憩を取りながら周囲を見渡すと昨日滑った薬師岳やこれから登る三俣蓮華岳が良く見える。
 10時過ぎ、頂上から稜線伝いに岩に注意しながら滑り降りる。2650m付近でカールの下部へ滑り込むが雪が腐っていてあまり良くない。黒部五郎小屋に着いたのは10時20分頃だった。第一関門突破という感じでまずはほっとするが、なんともあっけない滑りだった。行動食をとったりして休憩。10時45分、三俣蓮華岳への長い長い登りにかかる。斜面を登っている最中はとても暑いが稜線へ出る頃より上空に薄雲が広がり出し風も出てきた。12時50分、三俣蓮華岳の頂上に着く。北アルプスのへそからの眺めはとても良い。写真を撮ったりして休憩ののち、13時過ぎにシールをはずして双六岳へ向けて出発する。今日の行程もほとんど終えたので気が楽だ。小さな登り降りが幾つかあり疲れた体にしんどいが、14時10分全員無事に双六小屋に到着した。太郎平小屋を出発してから約8時間は長かったが完走できて嬉しい。ここのビールが美味かった。

                                  (井村記) 
【コースタイム】
小屋 5:55 −> 北ノ俣岳 7:15/25 −> 黒部五郎岳 9:45/10:05 
−(稜線経由)−> 黒部五郎小屋 10:20/45 −> 三俣蓮華岳 12:50/13:10 
−> 双六小屋 14:15


5月6日 曇
 薬師岳、黒部五郎岳、三俣蓮華岳と滑ってきた今年の僕らのゴールデンウイークも今日でおしまいだ。山小屋をベースにして、あの山この谷と空想した北アルプスの筈だったのだが。連日の疲労困憊で、斜面をまのあたりにしてもそんな余裕は全くなかった。 
計画では今日は丸山沢とかを滑る予定だったが、明日の天気がイマイチそうなので”三十六計逃げるに如かず”早々に退散を決意した。なにしろ真砂沢での悪夢は未だ忘れることはできない。小屋の小池氏に話を聞いたり、次田ツアーのレクチュアーを聞いたりして、下山ルートの情報を色々仕入れることができた。下山ルートは1.左俣谷、2.大ノマ乗越、3.弓折岳からの3ルートがあり、左俣谷のルートに興味が湧く。小池氏によると昨日飛騨山岳会のメンバーが左俣谷を滑っており、雪の状態も特に問題はないだろうとのことだった。
 まず次田ツアーが左俣谷経由ということで、樅沢岳への急斜面を登って行く。僕らはゆっくりと食事をとり、雪が少しでもゆるむことを期待して待つ。8時過ぎに双六小屋を出発する。スキーをザックに付けて樅沢岳への急な稜線を登る。山頂付近から双六谷を滑って下山する双六小屋ツアーの人びとが見える。山頂からは左俣谷が良く見える。
中間部分に大きなデブリが見える。先行パーティーはまだ滑り出していないようだ。ルートを観察しメンバーにも説明しておく。やがて左俣谷の方から喚声が聞こえ、滑り出した気配を感じる。さあ出発だ。急な稜線をコルへ下る。
 コルの直下はあまり傾斜は強くないがその下が見えない。先行のシュプールも良く見えない。少し雪が固いかも知れない。慎重に滑り出す。 少し右手にルートをとって、200m程下ったあたりで左へ大きくトラバースし、緩傾斜帯に出る。ここらあたりからすっかり悪雪になってしまい、転倒者が続出する。傾斜が落ちて本流らしき所に下ると、上から見えた大きなデブリがあった。そのすぐ下で先行パーティーが休んでいた。 
ここで僕らが先行する。ここから下流はデブリが多く滑りにくい。ただ前日のシュプールを追うだけだ。主に右岸を滑るのだが、1750m付近では水流が出ており、対岸に移らなければならなかった。さすが下山日、あっさりと渡渉してしまった。すぐ下で再び右岸に移り、水鉛谷のすぐ下で林道に出、一同ホッとする。あとは林道を滑って小池新道入口まで下り、大ノマ乗越をバックに記念写真を撮る。大ノマ乗越下の大斜面には大勢の人々が滑っていて、まるで蟻のようだ。近くにはスキーを背負って歩いて下っている何だかワケのわからない人も見える。ワサビ平まで何とか滑ることができた。そこからはホコリっぽい林道を小1時間で新穂高温泉へ下り、無事山行を終了した。タクシーで猪谷へ出、その日のうちに帰京した。
                                  (菅沼記) 
【コースタイム】
小屋 8:00 −> 樅沢岳 8:40/55 −> コル 9:05/20 −> 
渡渉 10:20 −> 小池新道入口 10:55/11:05 −> ワサビ平  
11:15/30 −> 新穂高温泉 12:30 −(タクシー:13,840円) 
−> 猪谷駅                                  


【概念図】                             
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