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ヨーロッパ・アルプス ダンブランシュ

令和元年2019年8月3日(土)-13日(火)
参加者 西川

 2019年夏のヨーロッパ・アルプス登山報告です。今回はダンブランシュ Dent Blanche とレンツシュピッツェ Lenzspitze を目標としました。ダンブランシュはアルプス屈指の名峰、レンツシュピッツェは滞在するザース・フェー Saas-Fee からダイレクトに登れる山、いずれもアルプス難関クラスの山です。結果は念願のダンブランシュ登頂、それとイェギホルン Jegihornの岩登りに行きました。
 アルプスで最も登りたい山、登るべき山はどこかと言えば、山容の立派さと登山の困難さの点からヴァイスホルンWeisshornとダンブランシュが双璧、最難関と言えます。壮麗・壮大極まるヴァイスホルン、特にモルゲンロートに純白に輝く北東壁は、同じ時間に黄金に輝くマッターホルンよりはるかに圧倒的にすばらしく、あたりの空間を支配するのはマッターホルンよりヴァイスホルン。ダンブランシュは力強い姿と厳しいクライミング。
 そこで1989年、ツェルマット Zermatt の山岳ガイド事務所で。
 「ヴァイスホルンとダンブランシュを登りたい。」
 "You are a good climber?"
 こんなやり取りがあってから30年にしてついに目標達成です。しかし、同時に次の目標が難しくなってきました。
 また近年アルプスで驚くのは氷河の解ける速度が凄まじいこと、平家物語の世界を見るようです。急速に滅亡に向かう平家と同様に衰退していく氷河。氷河無残の響きあり。
 ダンブランシュとダンデラン Dent d'Herens は本来は名前が逆だったそうです。そう聞くとうなずけます。エランの谷の奥にある山はダンブランシュ(白い牙)ではなく本当はダンデラン(エランの牙)だった。しかし今更本当の名前に戻すのは混乱しますし、何よりダンブランシュという力強い響きはアルプス最難関にふさわしい。
 
8月3日(土) 成田 -> バンコク
 タイ航空TG677便で成田17:55発、バンコクで乗換。
 
8月4日(日) スイスは快晴 バンコク -> チューリッヒ -> ザース・フェー
 バンコクをTG970便で01:05発、チューリッヒに7:50着。SBB(スイス連邦鉄道)に乗りフィスプ Visp着。快晴でトゥーン Thun 付近ではユングフラウ三山がよく見えた。ポストバスに乗り換えて自宅を出てから31時間でザース・フェーBT(バス・ターミナル)着。ここでツーリストオフィスの横の電話機でホテルを呼ぶつもりだったのだが、ホテルの省略電話番号が壁のリストに載っていない。オフィスは昼休みで閉まっている。自分の携帯を使うと国際ローミング料金が発生する。そこで歩いていくことにした。ホテルはハーニクへのゴンドラの近くのマーモット Marmotte。
 
ザース・フェーBT 
  ザース・フェーBT 丁度頭上がスイス国内最高峰ドーム
 
8月5日(月) 曇 ハイキング ザース・フェー -> ハーニク -> ギビドゥム -> ハーニク -> ザース・フェー
 当初の予定では、本日ミシャベル・ヒュッテ Mischabel Huette に入り明日レンツシュピッツェだった。しかしガイドのクルトKurt から連絡が入り、天候が確実でないので昼まで入山を待ち、結局入山は取りやめになった。レンツシュピッツェはルートも難しく長い、下山するためには隣のより高いナーデルホルン Nadelhorn へ縦走するので、コンディションが確実な時しか行けない。今年、ヨーロッパは非常な猛暑でSNSにはダンブランシュの岩場の雪も全く解けている写真も載っていたが、私が滞在していた一週間は雨の多い不安定な天気だった。
 ザース・フェーではホテルに泊まるとバス・ロープウェイの無料パスをくれるので、午後はハーニクまでゴンドラで上がり、メーリクからギビドゥムまでのハイキング。ここからは登る予定のレンツシュピッツェが間近に見えるが、北東壁は異様に雪が少ない。以前は全面真っ白だったはずだが、雪が付いているのは二割ほどか。帰りはゴンドラでも戻れるのだが、早すぎるので大回りして歩いて下山した。
 夕方クルトと相談し、天候が不安定なのでレンツシュピッツェは当面見合わせ、明日はホーザース Hohsaas の近くのイェギホルンに岩トレに行くことになった。
 コース・タイム
 ハーニク Hannig 2336m 12:45 -> メーリク Maellig 2700m 13:35 -> ギビドゥム Gibidum 2764m 14:05/14:15 -> ザース・フェー教会前 16:45
 
8月6日(火)  晴 イェギホルン 3206m 東稜のクライミング
 ザース・フェーBTに7:15、そこからクルトの車でホーザース、朝一番のゴンドラに乗りクロイツボーデンで下車。歩1時間で取付き点。アンザイレンしてクライミングを始める。岩はしっかりしているが、大きなホールド、スタンスはなくやや難しい。かなり長くタフ、岩トレと言うより本番クライミングだった。2時間半で頂上。ここはフェラータによく使われる山でピークの間の絶壁間にはフェラータ用の橋が架けられていた。名峰フレッチホルン Fletschhorn が眼前に見える。
 頂上からは一般道を下山。ザース・フェーに戻ってホテルへ歩き始めると右の靴がパタパタする。なんと底が半分は?がれているではないか。13年も経てばあることだろう。ホテルに戻ってから店に行き、レンタルの値段だけ聞いておいて次の山行が決まったら改めて行くことにした。
 コース・タイム
 クロイツボーデン Kreuzboden 07:45 -> 取付き点 約2830m 08:40 -> イェギホルン Jegihorn 11:16/11:35 -> クロイツボーデン 12:46
 
イェギホルン Jegihorn  イェギホルン Jegihorn
  イェギホルンのクライミングと頂上
 
イェギホルン Jegihorn イェギホルン・ルート
 
イェギホルン Jegihorn イェギホルン ルート図
 
8月7日(水) 雨
 雨のため停滞。クルトはこの先は別の予定が入っているため、ガイドはザース・フェー山岳ガイドオフィスで手配するように頼んでいた。午後ガイドオフィスに行き明日・明後日で遂にダンブランシュに行くことになった。手配の後、これから店に靴のレンタルに行くが割引にならないか聞いたところ、ガイドオフィスでレンタルしてくれる。今の靴より軽くフリクションも効いて岩場によさそうだ。ピッケルとポールも予定通り現地レンタルした。
 
8月8日(木) 快晴 ザース・フェー -> フェルペクル -> ダンブランシュ小屋
 ガイドのニキタ Nikita はフィスプ在住なので、フィスプまでバスで行き、そこでガイドの車に乗った。ローヌ川本流の谷をシオンSion まで下りエランの谷へ入るとダンブランシュが見えてくる。フェルペクルから出発。少し先で車道から山道に入り、トラバース気味に延々と登っていく。ブリコラの手前からダンブランシュの全容が見える。雪は北壁側でさえ非常に少ない。ブリコラから巻道を長々と登り、モレーン地帯に出た。この先はマンツェット Manzettes 氷河の下部の崩壊した不安定な所を場合によっては苦労して行くのかと思っていたが、氷河は全くない。下部はもう解けきって消滅したのだろうか。
 小川を渡り、ロック・ノワール Roc Noirへと続く所々ペンキでマークの着いた岩礫帯をさらに果てしなく登っていくと氷河の向こう側の岩場の途中にダンブランシュ小屋が見えてきた。アイゼンを付けて短い氷河を渡り、ようやくダンブランシュ小屋に到着。フェルペクルから小屋までの標高差は1700m強なのだが、ジェオグラフィカでは累積標高差 2000mを越えていた。確かに相当なワークで疲れを覚え明日に影響しないか心配なほどだった。小屋はこじんまりした造りで今日の客は15〜16人か。テラスからダンデラン北壁が見える。フランス語圏なので、おかみさんの受けをよくするようフランス語を使うようにしよう。夕食はスープにソーセージ、ポテトとデザートのアイス。8時過ぎに就寝した。
 コース・タイム
 フェルペクル Ferpecle 1806m 09:48 -> ブリコラ Bricola 2415m 11:16/11:36 -> ダンブランシュ小屋 3507m 15:36
 
エランの谷からのダンブランシュ
 エランの谷からのダンブランシュ
 
ブリコラからのダンブランシュ
 ブリコラからのダンブランシュ
 
ダンブランシュ小屋
 ダンブランシュ小屋
 
8月9日(金) 快晴 ダンブランシュ一般ルート南稜
 4時起床。朝食を摂りアンザイレンして出発。まず小屋の裏手の岩場を100mほど登り、次にアイゼンを付けて急な氷河を登ってヴァントフルーリュッケ Wandflueluecke の広い雪面に出ると、ここからが南稜になる。北に向きを変え踏み後のある岩場を登り、P3907の左の凍った急な雪面をトラバースすると小鞍部に出る。ここから本格的なクライミングでアイゼンを外した。最初は左側へ巻道、このあたりはまだ踏後も明瞭で難しくはないが、まもなく道は消え岩も急になり難しくなってくる。最難所のグラン・ジャンダルムが近づき、凍結していることが多いと言われるクーロワールだろうか、鉄のビレイピンが3本あり、それを使って岩を登る。大きなホールドやスタンスはないが、岩はしっかりしているので体を持ち上げやすく、易しくはないが非常に困難でもない。稜上に出たり、また巻いたりで次のツルムも越え長く厳しいクライミングが続く。
ダンブランシュ南稜からのマッターホルン
 ダンブランシュ南稜からのマッターホルン

ダンブランシュ南稜からグラン・コンバン、モンブラン
 ダンブランシュ南稜からのグラン・コンバン(中央奥)、モンブラン(その右の白いピーク)
 
グラン・ジャンダルム  グラン・ジャンダルム付近
 
 やがて稜は穏やかになると十字架のある頂上が見えてくる。ついに30年目標にしていたアルプスの王者ダンブランシュ頂上。登山者同士で Congratulations! 穏やかな好天でヴァリス・アルプスの多くの山々が見える大展望。多くの山は見慣れているが、この角度から初めて見るオーバーガーベルホルン Obergabelhorn が鋭い。アルベングラート Arebengrat は厳しそうだ。西の方にはグラン・コンバン、その背後にモンブラン。

ダンブランシュ頂上の十字架   ダンブランシュ頂上
 ダンブランシュ頂上

オーバーガーベルホルン
 ダンブランシュ頂上からのオーバーガーベルホルン、背景はミシャベル山群
 
 下山にかかる。難所やグラン・ジャンダルムは懸垂下降する。小鞍部まで戻ると一安心だが最後まで気はぬけない。朝トラバースした氷の急斜面は固いが朝よりは緩んでいた。南稜が終わってからもヴァントフルーリュッケから小屋の方向への下りは凍っているのでまたアイゼンを付けてしっかり下り、アイゼンを外して小屋への最後の岩場を下る。
 小屋で祝杯をあげ一休みして麓へ下山にかかる。フェルペクルまでも長かった。夕方5時に着。車でフィスプ、バスでザース・フェーに戻った。
 コース・タイム
 ダンブランシュ小屋 3507m 4:40 -> P3907の北の小鞍部 6:20 -> ダンブランシュ Dent Blanche 4356m 08:35/08:55 -> P3907の北の小鞍部 11:20 ->ダンブランシュ小屋 (12:40/ 13:30) -> フェルペクル 1806m 17:00
 
ダンブランシュ ルート図  ダンブランシュ ルート図
 
8月10日(土) 曇
  またもや天気が冴えないので、午後ガイドオフィスへレンタルを返却と支払いに行った。そのあとはマーモットと遊ぶためシュピールボーデン Spielboden へ。皆さんニンジンを持参して来ています。

マーモット

8月11日(日) 晴  午後に雨の恐れがあるので近辺の展望台を巡った。まずホーザースで周遊路巡り、それからレングフルー Laengflue、フェルスキン Felskin。

マーモット

8月12日(月) 雨  ザース・フェー -> チューリッヒ -> バンコク
 今日・明日で帰国するだけ。早朝のバスでザース・フェーを発ち、フィスプでICEに乗ってチューリッヒ空港へ。結果を出して無事日本へ帰れる、SBBの旅は快適。タイ航空TG971便でバンコクへ。
 
8月13日(火) -> バンコク -> 成田 -> 自宅
 バンコクでTG6767便に乗り換えて成田に夕方着。電車で帰宅。
 
  長年目標にしていたダンブランシュに登頂できたが、今回は非常に良い条件が重なっていた。
 ・いいタイミングで靴が壊れて本来よりよい靴で登れたこと。
 ・一週間雨の多い不安定な天気だったが無風快晴、絶好の日和に山行が組めたこと。
 ・ヨーロッパは酷暑でダンブランシュのルート上の雪もほとんど消えていたこと。最難所のグラン・ジャンダルムをトラバースするクーロワールは凍結していることが多く、事故も多発した所だ。 30年もやっているのだから、今回は確実に登れるようにときっと神の思し召しがあったのだろう。
 
 最初のアルプス山行から32年になり、4000m峰も以下の32座を登頂した。
 デュフールシュピッツェ(モンテローザ)   4634m
 ノルトエント(モンテローザ)        4609m
 ツムシュタインシュピッツェ(モンテローザ) 4563m
 ジグナールクッぺ(モンテローザ)      4554m
 ドーム                   4545m
 ヴァイスホルン               4505m
 リスカム                  4527m
 マッターホルン               4478m
 パロットシュピッツェ(モンテローザ)    4432m
 ダンブランシュ               4356m
 ルートヴィヒスヘーエ(モンテローザ)    4341m 
 ナーデルホルン               4327m
 シュヴァルツホルン(モンテローザ)     4322m
 フィンスターアールホルン          4274m
 シュテックナーデルホルン          4241m
 カストール                 4228m
 チナールロートホルン            4221m
 ホーベルクホルン              4219m
 ヴァンサン・ピラミッド(モンテローザ)   4215m
 グランドジョラス              4208m
 アルプフーベル               4206m
 リンピッシュホルン             4199m
 バルメンホルン(モンテローザ)       4167m
 ブライトホルン               4164m 
 ユングフラウ                4158m
 メンヒ                   4099m
 ポリュックス                4092m
 グラン・パラディゾ             4061m
 フィーシャーホルン             4049m
 アラリンホルン               4027m
 ヴァイスミース               4023m
 ラッギンホルン               4010m
以上 西川 記

 
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