Last Update : 2017/09/30 戻る

日高山脈 カムイエクウチカウシ(1979m)

2017年8月6日(金)〜8日(日)

参加者 菅澤他1名

 日高山脈のほぼ中央に位置するカムイエクウチカウシには登山道がないといわれている。ガイドブックによると ベースとなる八ノ沢出合から山頂までの往復タイムは8時間30分となっているが、実際に歩いてみるとコースミス がなかったにもかかわらず、休憩を入れて12時間20分かかった。

YSDの先輩から「北海道で一番良い山はカムエクだと思う。ぜひ登ってみなさい。」と言われてその気になった。 初めて計画した10年前は同行者のキャンセルがあり、その後も計画の都度、林道の橋が雪崩により崩壊して 通行止めになったり、身内の不幸が重なったりで機会を失っていた。

今回が年齢的にたぶんラストチャンスだっただろうが、天候と同行者に恵まれてなんとか念願を達成することが できた。羆とエキノコックスには用心したが、アブとブヨにはだいぶやられた。

8/5 晴れ

千歳空港11:30==千歳空港IC==(道東自動車道)==芽室帯広IC==中札内== (道道111号・静内中札 内線)==15:30日高山脈山岳センターキャンプ場(幕営)

千歳空港に出迎えてくれたFさんの車で日高山脈山岳センターに向う。Fさんは20才ほど若い札幌山の会会員で、昨冬は10回ほど山スキーを楽しんだという頼もしい同行者だ。

日高山脈山岳センターのキャンプ場は広大で水道・トイレ完備、しかも無料なので地元の愛好者も多いようで、リピーターの張り場所も決まっているらしい。

山岳センターの入口には昭和45年の福岡大ワンゲル部の夏合宿で3名の痛ましい犠牲者を出した時の羆の剥製があった。想像していたよりずいぶん小型の羆で3歳のメスとのこと。この事故のとき北海学園大学もその羆に遭遇しているが、パーティーの中に会社の先輩がいて、その時の恐怖を何回も聞いた。

8/8の昼ごろまでは何とか天気も持ちそうなので増水の危険無しと判断し予定通り入山することにする。 7月末には多かったという羆の目撃情報もこの数日はないとのこと。

8/6 曇り/晴れ

日高山脈山岳センター5:00==札内ヒュッテ駐車場(500m) 5:15/5:30―七ノ沢出合(600m) 7:15/7:30― 仲ノ沢出合(637m)―八ノ沢出合(685m) 9:30/10:00 ―三俣手前(880m)11:30/12:30―八ノ沢出合 14:00(幕営)    

今日は八ノ沢出合までなのでゆっくり出発。札内ヒュッテ駐車場に着くと10台ほど駐めてあったが、ハイシーズンの人気の山にしては少ない。札内ヒュッテは設備のしっかりした小屋で快適に泊まれそうだ。

ヒュッテ脇のゲートをくぐるとすぐトンネルとなり、舗装された真っ暗で長いトンネルはランプを点けて歩く。二つ目のゲートを過ぎると緩い上り下りが続く砂利道になる。七ノ沢出合手前では道路が深く陥没していた。6.5km歩いて七ノ沢出合到着。

地下足袋に履き替えて中州に向けて札内川の渡渉開始。Fさんはフェルト底の沢靴だが、自分の地下足袋はゴム底なので川底の藻でとても滑りやすい。すり足で深い場所へ足を運び、安定していることを確かめながら進むので時間がかかるが、すぐ慣れてきた。ほとんど足首から脛の中ほどまでの水深で、膝以上ありそうなところは避けて渡渉する。

札内川の河原は広く、概ね中洲か左岸の巻き道を辿る。岩ゴロの河原や足元の見えない巻き道は時間がかかる。中州の砂地を拾っていければ早い。大量の流木に行手をふさがれたり、渡渉を繰り返したりしながら涸れた仲ノ沢出合を過ぎる。八ノ沢に近づいてからは右岸沿いに進む。左からの八ノ沢に入って右岸を150mほど登ると対岸の大木に黄色テープが巻いてあったので渡渉しテント場に到着した。5張ほどのテントがあり、早速テントを設営。二人では大き過ぎる4〜5人用だが2〜3人用に比べ重さは500gも違わず、前室もあって居住性は格段に良い。テントを張り終えたころ、ご夫婦と思われるペアが下山してきた。「5時に出て3時間歩いたがルートがわからず、三俣までたどり着けないので諦めて下山する」という。今日は彼らを含めて4パーティー6人が出発したとのこと。

時間も早いので15時を目処に偵察に上がることにした。沢の石ゴロを歩いていて「どちらかな」と思うところにはだいたいケルンがあって、対岸にもケルンがある場所は渡渉ポイントだとわかる。対岸にケルンがない場合は渡渉ではなく巻き道が近いことを示していて、近くのピンクリボンが巻き道の入口を示している。しかし河原は広いのでガスがかかっていたり、暗い時はケルンもリボンも見つけられないだろう。

行く手の右上方にカムエクが見えてきた。雲はすっかり消え、念願のピークを見て登行意欲が高まる。小生は三俣手前でやめて、Fさんだけ三俣まで偵察に行ってもらった。単独の人が下山してきたので話をしたら「今朝は4時に出発した。まだ2パーティーが上にいる。車まで戻りたいが疲れているので八ノ沢出合に戻ってから考える。」とのことだったが相当に早いペースの方と思った。八連発を鳴らしてみたが沢沿いでは沢音に消されて効果は期待できない。

そのうちFさんが降りてきたので八ノ沢出合に戻ったが、登った時には気づかなかった巻き道を発見するなど収穫があった。目の前の小沢で体をぬぐい、キビナゴを肴に小宴会となったがすぐに命水が無くなった。

17:30に相次いで2パーティー3人が戻ってきた。こんなに時間がかかるものか不安になってしまう。

下山したパーティーが我々のテントの近くで焚き火を始めたので火の粉でテントに穴が開かないか心配になったが、そのうち寝てしまう。

8/7 晴れ/曇り

八ノ沢出合(685m) 4:30―三俣(1000m)6:20/6:45―八ノ沢カール(1535m) 8:15―稜線(1760m)9:30― カムイエクウチカウシ山頂(1979m) 11:10/11:30―八ノ沢カール13:00―三俣14:10/14:30― 16:50八ノ沢出合(幕営)  

明るくなるのを待って、登山靴をザックに入れて地下足袋で出発。今日は沢に入らず、テント場脇の巻き道からスタートし、渡渉と巻きを繰り返すが、昨日の偵察のおかげで三俣までサクサク到着。

今年は雪が多いらしく途中の沢筋には残雪が目立ち、三俣にも広い雪渓が残っていた。右岸の草付で登山靴に履き替える。

後続の単独者が対岸に掛かるスノーブリッジを渡りはじめたが、私たちの場所から見るスノーブリッジは極めて薄く見えたのでハラハラする。この単独者は山頂まで我々の後を追ってきた。

三本の滝のうち真ん中の滝を左岸から高巻きにかかる。草付きのトラバースや泥の急斜面を登り、三箇所にロープの張られたガレたルンゼを過ぎていく。滑床の涸れ沢でスリップして4mほどずり落ちたがケガをしないですんだ。

高山植物が目立ちはじめ、湧水場を過ぎて飛び出したところが八ノ沢カール。途中、迷いポイントとされるS字にはテープが張り渡されていた。平らな岩の上で一息入れながら羆がいないか確かめ、八連発を鳴らした。

三俣から八ノ沢カールまでは下山時も同じぐらい時間がかかるだろうと話し合う。

広くて気持ちの良いカールには湧水もあって幕営したら快適な場所だが、三俣からの登りを装備一式担ぎ上げる苦労と羆の生息地であることを考えると躊躇してしまう。

福岡大ワンゲル部の慰霊碑に手を合わせて稜線へ向う。カールからはハイマツ帯となり、稜線鞍部に向かって明瞭な踏み跡が続いているが、登るにつれてどんどん急になって息が切れる。日高の山は直登が多いと聞いていたが実感した。

稜線に出たところで一休みし、展望を楽しむ。南東側のピラミッド峰が際立っている。尾根は密生しているハイマツの抵抗が大きく前に進むのが大変で、この調子だと時間切れを心配するほどだった。地形図ではわからない起伏もあったが岩稜となってからは高度を稼ぐことができた。左手の日高側のコイボクカールはガスが沸きあがってきて見えない。頭上のピークを越えるとやっと山頂が見えてきた。稜線の十勝側にはすばらしいお花畑があって癒される。

ピラミッド峰が眼下になると一等三角点の山頂に到着。山名を表示した標識はなかった。

カムエクに登れるのは今回が最後のチャンスと思っていただけに、念願がかなって本当に嬉しい。

ガスがかかって幌尻方面は見えなかったが、十勝側は八ノ沢出合まで綺麗に見えて高度感が凄い。

「16時までにテント場に戻れたら七ノ沢出合まで頑張って、山岳センターで祝宴しよう」などと希望的観測を話し合っていたが・・・。

下山にかかり稜線上のピラミッド峰への分岐に戻ったが、二人ともピラミッド峰までピストンする気力は残っていなかった。

カール下の湧水場まで下り、渇いた喉に湧き水を流し込む。とにかく美味い水だった。Fさんが浄水器を携行してくれたので生水も心配なく飲めるし、多量の水を担がなくてすむのがすばらしい。

三俣まで気合を入れながらも慎重に下り、地下足袋に履き替えて予定時刻を過ぎてテント場に戻った。

今から撤収して下山すると七ノ沢出合に戻るころには真っ暗となり、渡渉も危険だし疲れてもいたのでもう一泊することにした。Fさんがカンチューハイを分けてくれたが旨くて感動ものだった。

今日、山頂を踏んだのは我々を含めて4名だけだった。

8/8 

八ノ沢出合4:30―七ノ沢出合―札内ヒュッテ駐車場8:50/9:15==中札内==芽室帯広IC==札幌IC== 12:30 Fさん宅

七ノ沢出合まで河原歩きと渡渉を繰り返す途中、巻き道の薮の中でアブの住みかを踏んでしまい大量のアブ に襲われて閉口した。日高山脈山岳センターをじっくり見学しようと立ち寄ったが開館時刻前で諦める。

札幌のFさん宅に戻り、洗濯と昼食。ビールが旨い。

幌尻、十勝を登ってきたSさんと合流し、夕刻から札幌山の会ルーム隣の居酒屋で、山の会A会長、S元会長、Fさん、Sさんの5人で懇談。若手の後継者育成が課題で、京極山荘を活用して一般登山者を巻き込んだ企画などを実行しているとのこと。懇談後、ルームを案内していただいたが立派な部屋で、資料・装備などがきちんと整理されていた。500円で宿泊もできると推奨された。この晩はFさん宅に泊めていただいた。

カムエクは条件にもよるが一筋縄では登れない山だった。それだけに大きな達成感を味わう事が出来た。

この後、余市岳と暑寒別岳を登って帰京したが、しばらくは燃え尽き症候群が続いた。

記:菅澤

 


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