Last Update : Apr 16, 1999 概念図追加
Jan 15, 1998
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 ラ・ネージュ記録集II 

  発行日 1982年10月1日 
  発行人 山スキー同志会    
  編集人 斎藤 進、川口敏博 他

ニセイカウシュッペ山                

北海道 / 清川より                      
                   1981年12月28日〜1982年1月1日 
                   メンバー:(L鈴木清、佐々木)、鈴木(利) 

12月28日(月)清川→約1330m(BC) 雪後曇り

 上川駅にタクシーもなく、層雲峡観光ホテルの従業員送迎バスに便乗する。清川で降ろしてもらうと、人影もない静かな部落にしんしんと雪が降っている。小学校の軒先を借りて出発準備をし、校庭の中央をスキーで横切って行く。
 双雲別川沿いの林道にはわずかにスキーのトレースが残っていた。雪も小降りになり、気温もそれほど低くなく、風もない歩き易い日だった。
 再びやってきた北海道。山の奥深さからいうと昨年に負けるが、北海道だけあってさすがに人との出会いはなく、静寂に包まれている。
 林道はすぐに終り、何度かスノーブリッジを渡りながら夏道沿いに進み、770mの二俣から道と分かれて右俣の方へ入って行く。900m位までは沢が狭く、道の延長のようで比較的登り易い。1061mのコルに向かって沢が扇状に広がるが、この辺りまで来ると、ようやく山らしくなる。コル付近はカンバの混交林で、広くて迷い易いところだ。初めのうちは細い木がつまっているが、広い稜線に向かって次第に少なくなり、スキーに良さそうな斜面が広がってくる。
 稜線を歩いていると1330m位のところでどちらかというと平坦な地形の上に、1.5m〜2m位の雪庇が壁となって15m位続いていた。緩斜面なので思いがけなかったが、この雪壁を利用して雪洞を掘ることにした。条件が良く1時間少々でゆったりとした雪洞が出来上がった。天気が半日早かったようで、星の奇麗な夜がふけて行った。

【コースタイム】   
上川 8:05 → 清川小学校 8:30/45 → 700m分岐(右) 10:00 → 770m(右) 11:20 → 1061mコル12:35 → 稜線(1330m) 13:45 → 約1330mBC(SH)14:05


12月29日(火)BC→P1560 曇り                  

 稜線上は風が強く天候も悪化しそうなので、本日登頂は無理と思われたが偵察をかねて出発することにした。
 気温はさほど低くなく、視界も思ったより利いている。夏道沿いに稜線を登って行くと左前方にニセイカウシュッペ山の山頂が見えてくる。また、雪庇も張り出して尾根は次第にやせてくる。この先は急峻な岩場と痩せ尾根が連続し、風も出てきて天気も続きそうもないので、1560mのピークから引き返すことにした。しかし登路を戻るのでは滑降を楽しむことが出来ないし、時間も十分にあるので、北側の斜面を茅刈別川支流の沢に向かって滑り、BCの方へ斜めに登り返すことにした。
 コルからの下りは斜度もきつく、ためらっていたが、木のまばらな深雪の斜面を目の当たりにしてはやはり心が動揺する。シールを外して挑戦してみた。すると20〜30cmの新雪を何の苦労もなく曲げることが出来た。私の技術では考えられない出来事で、まるで夢心地だった。木の点在した誰にも荒らされていない広大な斜面を思う存分堪能した。
 こういう時、北海道に来たんだという実感が湧いてくる。標高差にして120〜30mだったが、初めて味わう新雪の感触だった。沢底から50m位のところをトラバース気味に登り返し、雪庇の切れ間から稜線に出た。途中、沢の対面の稜線に登頂を断念したらしい4人のパーティが下り始めたのがかすかに見えた。今朝稜線に出て、視野に入った時からスキーに格好の斜面と目を付けていたところだけに、一層かきたてられた。雪洞まで一気に滑り込んで本日の行動を打ち切った。

【コースタイム】  
BC 7:30 → P1560 8:45/9:00 → P1533 10:20/30 → BC 11:00


12月30日(水)BC←→ニセイカウシュッペ 雪後曇り 

 朝のうち雪が降っていて風もあるので、停滞とし、雪洞の修理を行っていると、天候が回復してきた。出発は遅くなったが、沢の北面の偵察を兼ねて遊びに行くことにした。
 ニセイカウシュッペ山の西方へ伸びる尾根に取り付くように、BCから茅刈川支流の沢へトラバース気味に下りて行く。沢は殆ど埋まって難なく対岸へ渡ることが出来た。
 シールを装着し、広い樺の斜面を大きくジグをきって登って行く。初めのうち雪が降っていたが、それも気にならなくなった。1350m位まで来ると樹氷が花開き、自然の美しさに触れながら万感の思いでシールを滑らせていると、いつのまにか高度を稼ぎ、森林限界に出てしまった。P1697まで来れば山頂までそれほど遠くないし、滞在中再び登頂のチャンスがあるという保証もないので、前進することにした。
 ウインドクラストとアイスバーンのミックスした雪面を北側の雪庇を避けて進み、1750m位の岩の手前でスキーをデポし、アイゼンに変えた。山頂に近づくにつれ北風が厳しくなり、山頂では猛烈な地吹雪で体を支えるのがやっとという状態だった。
 デポ地から岩稜が続いていたわりには、山頂付近はなだらかでだだっ広く、視界も利かないので、あまり登頂の喜びが感じられないまま早々に下山した。風当たりの少ないところまで下ると、時々太陽が出てきてブロッケンが現れたり、日の当たった稜線や大雪を垣間見ることが出来た。
 デポ地に着くと再びガスに包まれ、慎重に下った。楽しみにしていた斜面も緩く、雪質が昨日より落ち、おまけに疲労が加わっているので快適とは言い難かった。しかし、ニセイカウシュッペ登頂への最短距離であるし、技術的にも容易なルートだと思う。
 本日は思いがけなく目標の登頂が出来、心地よい疲労感で、沢からBCへ帰ってきた。

【コースタイム】 
BC 8:50 → 沢(1300m弱) 9:20/35 → p1967 → 1750mSD 12:10/20 → ニセイカウシュッペ山 12:15/13:00 → SD地 13:20/30 → 沢(1300m弱)14:40/50 → BC 15:15 


12月31日(木)BC←→大槍 曇り   

 昨日はただ登頂を果たしたという感が強かったので、本日は稜線上の別ルートから山頂を目指すことにした。入山してから最も良い天気が予想されるので、今日こそ大雪や周辺のパノラマを満喫しようと勇んで出発した。
 尾根に出ると、南側にモルゲンロートに染まった大雪の山々がそびえており、思わず歓声をあげてしまった。ようやくいい写真が取れるという思いが脳裏をかすめる。昨日の斜面を見ると、既に樹林限界の辺りを4人パーティが登っていた。
 澄み切った青空とは行かないが周辺の眺めは素晴らしい。ニセイカウシュッペ山の周辺は非常に珍しい地形で、山頂まで時計周りと反対に螺旋状に尾根が続いている。p1742の岩峰を左(北側)から巻こうとスキーを進めたが、急斜面の堅い雪面の手前でスキーをデポし、アイゼンとピッケルに替えた。
 岩峰のトラバースに苦労したが、再び稜線に立つと前方の大槍、小槍そして大槍から南方に向かう岩稜が、見事な雪と岩の世界を形成していた。景観は抜群だがナイフエッジが続き、緊張を強いられた。
 時間がかかりすぎるので、ニセイカウシッペ山は断念して大槍登頂に切り替えることにした。思ったよりアイゼンのきく大槍の斜面を何とか上り詰めると、今まで隠れていた世界が広がっていた。ニセイカウシュッペ山までのなだらかな斜面、そして比麻良山へ続く稜線(ここに先のパーティが取り付いていた)さらに黄金が原、トムラウシ、天塩岳等々一望に見渡せる。夏には登ることが出来ない突端まで進み、大槍完全登頂を為した。下山するのが惜しかったが、再び緊張の世界に入っていった。
 スキーデポからは一昨日の手前まで尾根を辿ると、豪快な滑降のみが待っている。雪は前回ほどではなかったが、気持ちよく滑ることが出来た。茅刈別川支流の沢まで下り、沢沿いに昨日のルートまで行ったが、途中滝が出ている箇所があり、左岸をへつって越えた。赤布から、くっきりと残っているトレースを辿って雪洞に戻った。
 快晴にこそならなかったが、始終穏やかな天気に恵まれ、今日がなかったらこの度の山行は印象の薄いものになっていたであろう。

【コースタイム】              
BC 7:10 → スキーデポ(P1742m前) 9:10/20 → 大槍 11:05/35 → SD 12:30/13:00 → 沢より尾根の取付点(1300m弱) 14:10/20 → BC 14:45


1月1日(金)BC→清川 曇り

 天気図の予想と反して、視界も利く穏やかな下山日となった。4日間寝起きした雪洞も 
名残惜しいものだ。                                

 久振りの重荷で、徐々に木が密集してくる樹林帯では閉口したが、1061mのコルからは双雲別川の源頭部を数ターンで下り、あとは沢沿いに細い谷間を入山の逆コースで進む。途中から、かなりはっきりしたトレースが出現した。私たちのトレースを利用した別パーティのものらしい。おかげで緩斜面を良く滑り、雪洞から清川のバス停までわずか2時間少々で下ってしまった。
 アプローチが短い割りに人と出会うこともなく、結構まとまりのある登山とスキーを楽しむことが出来る山だ。最も目的とするピークが一つしかないので、天候に恵まれさえすれば3日間もあれば充分な山域である。私たちは運良く好適地に雪洞を掘ることが出来、ルートの多様化を考慮できた点では成功だったと思う。快晴の空が欲しかったが、満足できる山行だった。
 清川でバスを待つまで穏やかだった天候もバスに乗った途端に崩れ、大雪が降り始めた。
昨年と同じケースだけに、よほど幸運のようだ。 

【コースタイム】  
BC 7:00 → 清川 9:15 

記:鈴木利、電子化:作野 

【概念図】                                  



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